海軍病院との距離

金澤丈治

 沖縄で開催された気管食道科学会の際に伺った話ですが，在沖縄米国海軍病院が移転になったとともに，母校の琉球大学病院もその隣の敷地に移転されるとのことです．私が学生の頃の沖縄は，南国に，都会と田舎と琉球とアメリカが入り混じった不思議なところでした．このうちアメリカは，沖縄を構成するもののうち今よりも大きな要素を占めていたように思います．現在よりも基地の面積は広く，街にはアメリカの兵隊さんが多かったし，飲み屋さんで共にカラオケで歌うのも珍しくはありませんでした．沖縄が経験した歴史を十分に知ってはいるつもりですが，高台から見下ろす米軍基地のオレンジの夜景は海外での医師生活に憧れていた私には魅力的に見えました．学年が上がる頃には，基地内でのホームステイも経験し，何度か米海軍病院にも短期見学に通い研修プログラムにも応募しました．できることならアメリカで医師として活躍してみたいというのが夢と言えば夢でした．当時の日本の研修事情を考えると当然のことかもしれませんが，距離以外にも２つの病院は遠く交流も殆どありませんでした．私の場合も周辺の事情でプログラムへの参加はできませんでしたが，このことは後悔の１つになっています．今回，フェンスがあるものの２つの病院の距離が縮まります．時代の移り変わりを感じるとともに，このようなことが両国の医療の発展につながることを期待しています．

 因みに，移転の情報はすべて偶然乗り合わせたタクシーの運転手さんからのものです．この方が，学生時代によく通った今は無き中華料理屋さんの店主だったのはなんという奇遇でしょう！