IPA講座①
先ごろ国連の事務総長が「もはやglobal warmingではなくglobal boilingの時代だ」と発言したことがニュースで報じられていましたが、このブログを読んでいる皆様も体験している通り、ここ日本でもこの夏の暑さは特に厳しいものとなっています。私自身、7月下旬に取得した夏季休暇中に軽井沢、仙台といずれも例年であれば暑さが和らぐ地へ出かけたのですが、どちらも非常に暑く、屋外に数分出るだけで全身から汗が滲み出し、日本全国どこにも逃げ場はないではないかと思う程でした。こんな状況で所謂“酒飲み”の私は「冷えたビールが美味しいだろうなぁ」と考えてしまいます。ということで、2回に渡ってビールについて少し書いてみたいと思います。
日本でビールと言えば、ほとんどの場合アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーの大手4社が製造するピルスナーを指します。苦味が強すぎずスッキリした味わいと喉越しの良さから暑い夏場やお風呂上がりにピッタリで、私自身もそのような場面では日本のビールが飲みたくなります。しかし、ピルスナーは数多あるビールのスタイルの1つにすぎません。ビールはまず大きく上面発酵(エール)と下面発酵(ラガー)に分けられます。他に自然発酵という製造法もありますが少数派です。ピルスナーはラガーの一種で、チェコ発祥のスタイルです。そのクセのない味わいから、日本のみならず、世界の大手メーカーのビールはピルスナーがほとんどです。ラガーは低温で長期間の熟成が必要なため大きな設備が必要ですが、雑菌が繁殖しにくく管理しやすいという利点もあり、大手に適したスタイルと言えます。一方で、大手が作るビールの対極のような存在が近年日本でも市民権を得つつあるクラフトビールで、主に小規模な作り手がそれぞれの嗜好で作っている個性的なビールです。クラフトビールはエールが多く、これはエールがラガーに比べて小規模な設備と短い醸造期間で済むことと、強い風味を表現しやすいことによります。最近は大手メーカーもクラフトビールの人気を無視できず、クラフトビールスタイルのエールを作るようになりました。その中でも最も人気があるスタイルがIPAです。普段ビールを飲む方であればどこかでこの名前を見聞きした方もいらっしゃると思います。IPAとはindia pale aleの略で、イギリスの植民地時代のインドにイギリスからペールエール(イギリス発祥のスタイル)を輸送するために防腐剤を兼ねてホップを大量に投入し作られた、というのが通説で、香りと苦味が強いスタイルです。その後、禁酒法時代を経て大手のラガーしか流通しなくなっていた1970年代のアメリカでそれらに満足できない愛好家たちがクラフトビールという文化を生み出し、数あるスタイルの中でも香り豊かなアメリカ産のホップが使われたIPAが特に脚光を浴びるようになりました。このアメリカンIPAはカリフォルニアから始まり、透き通った見た目としっかりした苦味が特徴で、現在も人気のスタイルの一つですが、2000年代中頃にニューイングランド地方と呼ばれるアメリカ北東部に位置するバーモント州の小さな町で今や世界で最も人気があるといっても過言ではないスタイルが誕生しました。ニューイングランドIPA(NEIPA)と呼ばれるこのスタイルは、それまでのIPAとは異なり、見た目は濁りのある明るい黄色で、苦味は抑えられ、ホップのフルーティーさが口の中で爆発するような風味を持ち、瞬く間に人気が広がって、現在は日本を含め世界中の醸造所で作られています。これに対し、元々のアメリカンIPAはウエストコーストIPAと呼ばれるようになりました。
長くなってきたので、今回はここまで。次回は私とNEIPAについて書きます。