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2022年度 学会報告 第35回 日本口腔咽頭科学会(倉敷市、川崎医科大学主幹)

   

2022年 9月 8日(木)- 9日(金)の2日間、倉敷市において第35回日本口腔咽頭科学会が開催された。倉敷といえば美観地区と大原美術館が有名な観光都市であるが、COVID第7波がいまだ収束していない時期でもあり、街中に観光客の姿はまばらであった。しかし倉敷美観地区の白壁の蔵屋敷となまこ(海鼠)壁は以前と変わらず、大原美術館のモネの「睡蓮」(他にも名画は数ありますが、私はこの小さな「睡蓮」が好きです)が、暖かく久しぶりの来訪を迎えてくれた。

 

今回の学会テーマは、「新時代の口腔咽頭科学」であり、私は学会初日のオープニング、シンポジウム1「新時代の小児OSA治療:未来に羽ばたく子供達を守る」の司会と、その後のランチョンセミナー2「口蓋扁桃・アデノイド手術の歴史と進化 ー内視鏡下コブレーター手術に至るまでー 」の講演を担当した。シンポジウム1では、当科のディアス島田茉莉先生がシンポジストとして登壇し、「マイクロデブリッタを用いたPITAの実際」として講演を行った。

 

小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)に対する口蓋扁桃・アデノイド手術(Adeno-tonsillectomy)として、今から遡ること20年前に、米国のKoltaiらによって始められたパワーデバイスを用いた口蓋扁桃・アデノイド切除術(Powered Intracapsular Tonsillectomy and adenoidectomy:PITA)は、口蓋扁桃被膜や咽頭筋層は温存して口蓋扁桃やアデノイドのリンパ組織だけを可及的に減量する術式である。コブレータやマイクロデブリッターなどのパワーデバイスの応用により出血をコントロールしながら行う本手術では、口蓋扁桃被膜外の径の太い脈管を損傷しないため、従来法に比べて術後出血、特に晩期の後出血が少なく、術後疼痛も軽微であることが知られている。近年(特にここ5年ほどのうちに)、スウェーデン、英国、ドイツ、オーストリアなどのヨーロッパ諸国においては、かなり一般的になってきた術式であるが、我が国における認知度はまだ低いのが現状である。

 

科学技術や昨今のIT産業界におけるイノベーションは、失敗することを恐れない若い力によるものであるが、外科手術のイノベーションはリスクを熟知した上で、どこまでのリスクを許容できるかアカデミックに判断できるベテラン医師から始まるものである。決して完成された手術とは言い難い、これまでの口蓋扁桃・アデノイド手術のあり方には疑問があり、今後のOSA外科手術のイノベーションが求められている。近々、パワーデバイス口蓋扁桃アデノイド手術の適応や方法、Tips & Pitfallsをまとめたデジタル版「How to do」を学会HPなどに掲載していく予定である。

 

2022年9月20日 伊藤真人

 

 

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