医局ブログ│自治医科大学医学部耳鼻咽喉科学講座

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お香とチャーチル

      2022/04/05

伊藤 真人

 

私は香が好きで、毎朝大学に着くと一つ焚くのを日課にしている。香というと、何やら辛気なイメージをお持ちの方もおられるかもしれないが、華やかな香りのものや深みのあるものなどいろいろな香りがあり、その日の気分で楽しんでいる。家へ帰ればまた一香、忙しい日常を忘れて好きな香りに包まれると気持ちが安らぐものである。以前はしばしば京都のお香店に立ち寄って様々なお香を目で楽しみ、鼻で楽しみながら買い求めたが、最近ではそうそう京都へ行くこともかなわない。しかし、どこか地方でふらりと入った地元のお香店で、案外新しい香りに出会うこともあり楽しみがひとつ増えたと喜んでいる。

自分の結婚式の引き出物に、親しい方にだけ九谷焼の香炉を送って呆れられた記憶があるので、かなり若い頃からの好みであることには違いないのだが、どうして香を焚くようになったのかは全く覚えていない。江戸時代の川柳句集、誹風 柳多留(はいふう やなぎだる)に「沈香も焚かず屁もひらず」というのがある。「長所もなければ短所もなく、美徳もなければ悪行もない」、まあ私のような平凡な人のことを指したものである。生来平凡な我が身を顧みて、せめて沈香でも焚こうと思い立ったのであったかもしれない。

ところで、今も英国で絶大な人気を誇るウインストン・チャーチル首相の有名な言葉に「成功は決定的でもなければ、失敗が致命的でもない。肝心なのは、続ける勇気である」というのがある。今まさにウクライナで戦争が始まり、第3次世界大戦まで起こりかねない状況(2月25日現在)は開戦前夜のごとくであるが、こういう時こそ、チャーチルが残した数多の言葉が私たちに勇気を与えてくれる。チャーチルも信じた「言葉の力(言霊)」が、今再び必要な今日この頃である。

チャーチルは多才の人でもあり、自筆の回顧録『第二次世界大戦』は1953年にノーベル文学賞(平和賞ではなく)を受賞しているが、「英国の英雄」「不撓不屈の人」とも言われるチャーチルはまた、極めつきの変人とも言われたようである。彼こそまさに「沈香を焚き、屁も放る(ひる)」異才の塊のような人であったようである。混沌とした危機の時代に組織を動かすには、そういうあくの強さも必要なのだろうが、人前で屁を放る勇気のない私は、今日もひっそりとお香を焚いている。

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