医局ブログ│自治医科大学医学部耳鼻咽喉科学講座

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氷室まんじゅうとカナダ・デイ

   

伊藤 真人

 ブロブを見ていただいている皆さまの、お誕生日は何の日でしょうか?

 誰しも自分の名前や生まれた日には何かしらの思い入れがあるものです。私の場合、子どもの頃「あなたの誕生日は氷室の日」と言われました。氷室と言うのは「貯蔵した冷温貯蔵庫」のことで、かつては世界各地にありましたが、私の生まれ育った地方でも、毎年夏の初めに「氷室開き」があり、かつては将軍家へ氷室の氷を献上する慣わしがあったそうです。しかし庶民には夏の氷は高嶺の花、代わりに氷を模した饅頭(氷室饅頭という、こし餡の入った丸型の酒饅頭)を食べて1年の健康を祈る風習が今も続いています。当然、私の誕生日にはケーキではなく、饅頭を食べてお祝いをしてもらうこととなったため、小さい頃の私は饅頭が嫌いでした。罰当たりにも、「全くつまらない日に生まれたものだ」とずっと思っていたのですが、大人になって、オタワ(カナダの首都)に留学した時に大きく考えが変わりました。そう、私の誕生日はCanada Day(カナダの建国記念日)だったのです。私は、カールトン大学のラボの仲間や学生に囲まれて、ボスの奥さんの手造りオレンジ・ケーキで誕生日のお祝いをしてもらう事となりました。おまけにパーラメント・ヒル(連邦政府の議事堂や首相官邸などがある丘)では、建国を祝う打ち上げ花火まであり、それはまるでカナダの友人たちだけではなく、カナダ国民が皆、私の誕生日を祝ってくれているかのようでした。そう、7月1日の「氷室の日」が「Canada Day」に変わり、あの憎き氷室饅頭がケーキと打ち上げ花火に変化した瞬間でした。

 

 皆さんも臨床医を続けていると、このように「ものの見方が180°変わる」ような劇的な瞬間をご経験したことがあるのではないでしょうか。私も「耳鼻咽喉科の臨床医学のブレークスルー」を感じた瞬間が何度かあります。例えば、「中耳粘膜は呼吸している(中耳換気):高橋晴雄先生」や、「同じ細菌が環境によって変貌する(phase variant):山中 昇先生」などの理論に初めて触れた瞬間です。House Ear ClinicのSheehy先生のレクチャーで聞いた「耳の手術は哲学だ」や、スイスのFisch先生の「耳の手術はチェスと同じ(ロジックが全て)」という言葉にも衝撃を覚えました。このような感動を味わえる瞬間こそ、臨床医の醍醐味の一つではないでしょうか。

 

(このブログは、自著の耳鼻咽喉科臨床会誌 編集余滴 2019. から改変しました)

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