医局ブログ│自治医科大学医学部耳鼻咽喉科学講座

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イノベーターのすすめ

   

伊藤 真人

 
 皆さま、Rogersの「Diffusion of Innovation Curve」というのをご存じでしょうか? これは、1962 年に E.M. Rogers によって開発された、最も古い社会科学の理論の1つで、ある革新的なアイデアや製品(イノベーション)が時間とともに勢いを増し、社会に拡散し普及していく様子を説明する理論です。これは、後述する「Adopter Category Curve」と対になっています。

 通常イノベーションはそれが革新的であるほど最初はなかなか社会に受け入れられず、一部の特殊な能力を持ったイノベーターやアーリーアダプターと言われる人々のみが採用して、ゆっくりと時間をかけて社会に浸透していきます。そして社会におけるシェアが20%「Tipping Point」を超えたところから、急激な拡散(大流行)が始まるとされています。

 

 

 
 さらに、Rogersの「Adopter category curve」では、新しい革新的イノベーションの採用は、社会の中で同時に起こるのではなく、先に述べたようにある特定の人々によって行われると考えられています。つまり、あるイノベーションを早期に採用した人は、後から採用した人とは異なる特性を持つと考えられており、このイノベーションを最初に採用するのがイノベーターと言われる人たちです。リスクを取ることを厭わず、新しいアイデアを最初に開発する先駆者です。それに続くのが、リーダーシップを発揮してオピニオンリーダーとなる人々で、アーリーアダプターと言われます。さらに、そのイノベーションの成功をみたアーリーマジョリティーが、急激なシェアの拡大に貢献することとなります。つまり、アーリーマジョリティーの一部がイノベーションを受け入れ出したところが Tipping Pointのシェア20%となるわけです。

Rogers’ adopter category curve

 
 科学技術や昨今のIT産業界におけるイノベーションは、失敗することを恐れない若い力によるところが大きいのですが、こと臨床医学の分野、特に外科手術のイノベーションは「リスクを熟知した上で、どこまでのリスクを許容できるかを、アカデミックに判断できるベテラン医師」しか始めることができないと考えられています。ところが残念ながら、ベテラン医師の多くはまた、変化に対して懐疑的で保守的な人たちでもあります。彼らがイノベーションを採用するのは、それが多くの人たちによって試されて、良い結果が出てからです。この矛盾をどうすれば解決できるのでしょうか?

 先に述べたように、アカデミックな情報を集めて客観的かつ適切にリスク評価ができるベテラン医師にしか、外科手術のイノベーションを起こすことはできず、さらにそのリスクを正しく恐れたうえで、新しいことにチャレンジすることは、大学病院などのアカデミアに属する医師の務めと言えます。

 世の中には、大学や大学病院のことを、権威主義的で硬直したシステムであるかのように思っている人も多いかもしれませんが、大学の使命は昔も今も変わることなく、「知の伝承」を行うとともに、新しいことを発見し、挑戦して「人類の未来を作る」ことにあります。医療の世界でも大学(病院)の使命は、最高水準の医療を提供するとともに、古い慣習的な医療を排して、より良い医療のイノベーターとなることです。つまり、大学(病院)とは、医療の中では常に変化を模索している最もフレキシブルな集団であるともいえます。昨今、若い医師が大学(病院)を敬遠する風潮がありますが、もっと自分の可能性を信じて医療の変革にチャレンジしてくれることを欲しています。私たちの周りにある古い医療の変革と人類の未来の創造は、この文章を読んでくれている若い先生たちの未来にかかっています。
 
 イノベーター、アーリーアダプターを目指しましょう!
 

Diffusion of Innovation

 

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